子ども人間学を学ぶことで従来と異なる 「実践の可能性」 が生れるはず。
子どものため、自らのため、学んでほしい。
学長の生田 久美子です。どうぞよろしくお願い申し上げます。
2015年に開設した田園調布学園大学大学院人間学研究科の研究科長を2年間務めましたが、今年度より学長に就任いたしました。今後は大学全体の教学を司る中で、大学院の教育にも引き続き、少し離れた視点から、関与して参る所存です。
人間学研究科子ども人間学専攻が目指すのは、保育園や幼稚園、児童養護施設などの現場で日々生じる多岐にわたる課題に対して、適切な解決策を自ら導き出せる人材を養成することにあります。もう少し具体的に言うならば、私たちは、保育や教育実践の中で課題に直面したとき自らの行動を単に反省するだけではなく、どこに問題があったのかについて幅広い視点から吟味し、その改善策を考え、実践行動に移せる人材、すなわち「省察的実践家(Reflective Practitioner)」の養成を目指しているのです。
本大学院のカリキュラムの特色は、「子どもを子どもとしてとらえる」という従来の保育観にとらわれず、「子どもを人間としてとらえる」ことを重視し、保育・教育実践の場で発想や課題のとらえ方の転換ができる力の育成を目指している点にあります。その基盤を作るのが「基本科目」として設置している「人間学概論」です。そこでは哲学、文学、政治、芸術、自然等の事柄を人間の本性と関連させて学ぶことが意図されています。哲学や文学を学ぶことが保育・教育とどのように結びつくのか疑問に思われるかもしれませんが、これらは幅広い視野を養うことで、従来と異なる保育観を構築することを目指して設けられた科目です。こうした科目を学びながら、専門科目や研究指導科目を履修することで、真の意味で質の高い専門性が高まっていくと私たちは考えています。
日々直面する現場での課題に多面から光を照らすことで当の課題を克服し、実践を改善していくことは子どものたちのためになるだけでなく、保育者や教育者自らの「知」の創造につながると私は確信しています。
本大学院が、保育・教育現場の改善や子どもの成長、さらには地域への貢献を企図しながら、自らの実践力を高めようとする方々を支える大学院としてありつづけることを願ってやみません。
相互に刺激し、高め合える環境で
自ら考え組み立てる力を養ってほしい。
子ども人間学専攻では、「子どもを人間としてみる」ことを軸としています。「子ども」と
いう概念が生まれたのは実は近代になってからのことで、それ以前は「身体の小さな大人」として扱われていたのです。17世紀のこの「子どもの発見」以降、世界中で様々な教育や支援が広がっていきました。一方で、現代の我々はどうでしょう。「大人と違って独自である」とするあまり、子どもを「人間としてみる」という視点が欠如してしまっている側面はないでしょうか。とりわけ昨今の教育現場では効率化が求められる傾向にあり、多くの問題や行き詰まりが起こっています。そこでもう一度、“子どもの様子をよく見る”という原点に立ち返り、教育全体を立て直そうというのが一つの大きなテーマとなっています。
本学院には20~6 0代の幅広い年代の院生が在籍しています。中でも保育園や幼稚園、小学校などで働きながら学ぶ人が多く、異なる経験を持つ者同士が互いに刺激し高め合える環境です。問題意識を抱きながら教育現場で働く人が大学院で学ぶことの意義として、普段自分が携わっている場から離れて客観視できることがあげられます。また、すぐに職場で活かせる即効性を追い求めたり、単に手法を覚えたりするのではなく、広い視野でじっくりと研究に取り組み、自分で考え組み立てる力を養うことで、結果的に汎用性を持った成果が得られるだろうと思います。そういう意味で、「人間とは何なのか」を突き詰めていく本学院での学びは、生涯学習の一環となるのではないでしょうか。
「教育」とは私たちの身近にあるもので、いかにもよく知っているもののように思えます。その中で、当然のこととして捉えていること1つ1つを常に問い直し、自分自身を振り返りながら実践を重ねる「省察的実践家」としての素養を、ここで磨いてもらいたいと思います。
広い視野を持つ実践家を目指し、
可能性を信じて様々なことに挑戦してください。
2017年に誕生した国家資格「公認心理師」は、医療・保健/福祉/教育/司法・犯罪/産業・労働と、5領域の広範囲な活動が想定されており、今後は専門知識やカウンセリング技術に加え、他の職種と連携がとれるコミュニケーション能力を兼ね備えた人材が求められています。
心理学専攻ではそんな次世代に活躍できる、広い視野を持った公認心理師の養成を目指しています。特長の1つとして、様々な経歴を持つ教員がおり、多様な視点からバランスよく指導できることが挙げられます。
私自身は、教員になる以前は、保健所の精神保健福祉相談員として相談業務や、こども医療センターの心理職として心理支援にも携わっていました。他の教員には児童相談所の心理判定員、高齢施設での心理的支援、病院の精神科でのカウンセラーなど、各分野で活躍したスペシャリストが在籍しています。
少人数制のため各教員が一人一人とじっくり議論を重ね、目的に向かって共に研究を深めることができます。実習も重視しており、広範囲にわたって体験できるよう充実したカキュラムを整えました。
また、資格を取得すれば終わりではなく、常に己と向き合い自己研鑽に努めることが欠かせません。「省察的実践家の養成」をコンセプトに掲げる本学の大学院での学びを通じて、その土台を養うことができるのではないでしょうか。
もう一つ、心理職を志す人に大切にしてほしいことは、自分の可能性を信じることです。なぜなら自分で自分のことを諦めていては、クライエントに対しても限界を設けてしまいねないからです。自分を信じ、人間を信じることを大切にしながら、様々なことに挑戦し、きく飛躍してほしいと思います。